取材記事

伝統文化・和紙を守りつつ、幅広い世代に親しまれる紙屋を目指して【武藤紙店】

今回あいづっぺでぃあが訪ねたのは、会津若松市で創業110年の歴史をもつ「武藤紙店」の武藤守弘さん、理恵さん。

昨年に代替わりをし、お二人が中心となってお店を切り盛りしている武藤紙店は、和紙をはじめ「紙と付くものは何でもある」というくらいの豊富な品揃えが魅力です。

日本の伝統文化である和紙を守りつつ、新しい試みにも積極的に取り組んでいるお二人に、お店で扱っている商品のことからお店のこだわり、そして今後の展望に至るまでお話を伺いました。

“ただ商品を仕入れて売るだけ”の紙屋ではない

武藤紙店は和紙を中心に1,000点以上の商品を扱っている。写真の商品もすべて和紙だ。

ーーー武藤紙店はどのようなお店なのか、教えてください。

守弘さん:武藤紙店は1911年(明治44年)創業の、紙を専門に扱っているお店です。創業当時は紙とお茶をメインに扱っていたようですが、次第に紙だけを扱う業態に変わっていきました。

理恵さん:紙と言ってもトイレットペーパーから始まって、芸者さんが使うお化粧の紙から、コピー用紙、ふすま紙、障子紙、絵を描くための紙まで置いています。

ほかにも和紙、折り紙、半紙、色紙…とにかく“紙”と付くものは大体あります。これらの卸と小売をやっているんです。

守弘さん:扱っているアイテム数は全部で1,000点以上になります。お客さまからの要望にお応えしていくと、このくらいの品揃えになっちゃいますね。

うちのメインは和紙ですが、昨年に代替わりをしてからは新しい試みとして少し品揃えを変えて、ドライフラワーを漉き込んだものやデザイン性の高いアート和紙など、ユニークな商品も扱い始めました。

買いにいらっしゃるお客さまは県内にとどまらず、関東圏や東北などからおいでいただくことも。卸先でいえば、最も遠くてフランスからご注文いただいたこともあります。ご連絡いただければ、配送で良ければどこでもお送りしますよ。

扱っているアート和紙の一部。武藤紙店だけでなく、和紙を作る職人さんも新しいことに挑戦している。

ーーーでは、お店でこだわっていることはなんですか?

理恵さん:“極力、お客さまの要望に沿うこと”ですね。たとえば、「和紙1枚からください」って言われても対応します。量販店だと100枚単位でしか買えないけれど、うちはそれをバラして、袋に入れ直して。個人のお客さまでも買えるようには心がけていますね。

あとは「この紙で封筒を作ってください」などの依頼があれば、その紙を取り寄せて加工し、納品することもあります。納期に余裕があって、人がこなせる数であればお受けしていますね。

守弘さん:やっぱり、ただ商品を仕入れて売るだけっていうわけにはいかないですよね。それはある意味、うちの意地でもあるよね。

理恵さん:これありますか?って言われて、なければ作ってどうにかならないかなって考えます。こういうので良ければ作るけど、人の手が入ってもいいですか?って聞いて、よければ作りますよって。そういう相談には乗れるようにしたいな。

便箋は幅広い年齢層に合うよう品揃えを工夫したり、はがきは季節ごとに置くものを変えたりしている。

ーーーお客さまに対し、なるべくNOと言わないようにされているのですね。

理恵さん:うちまで来るってことは、いくら探しても見つからなかったんだろうなって思っているので。大手で探しても見つからなくて、うちに来るんだろうなって。だからこそ、可能な限りお手伝いしたいんです。

あとは、紙を買いに来るお客さまには、自分の勉強のために「何に使われるんですか?」と聞くようにしています。お客さまに使い道を聞くことで、ほかのお客さまに新たな用途を提案できることもあるので。なかには「実はこれでカステラ焼いているんです」と教えてくださった方もいましたね。

だから、接客のこだわりとしては、私は基本的にお客さまには声をかけます。「なにかお探しのものがあれば、言ってくださいね」って。これだけ品数があると目当てのものが探せないだろうし、本当はあるのに、見つけられなくて帰っちゃうのが1番残念なので。

ーーーでは、紙屋さんをやっていて「難しいな」と思うことはありますか?

守弘さん:仕入先である職人さんのところでも代替わりや絶家があって、商品の継続供給が難しいことでしょうか。

理恵さん:「何年前に買ったこの紙が欲しい」って言われても、作っている方が亡くなってしまって、もう作っていないとか。だから、代わりのものを探さなきゃいけないことも結構あるんです。

守弘さん:どうしても、時代の流れとともに作られなくなった商品が出てきます。そうすると、うちも販売を辞めなきゃいけない。「文化を守りきれなかったな」っていう寂しさはありますね。けれど、先代たちがやってきたことを継承しつつ、時代に合わせた新しい試みの必要性も感じているので、いまは色々と試行錯誤中です。

新しい風を入れつつ、伝統を守り続けるのが責務

会津木綿柄の紙で作られた黄色のトレー(写真左)が、パリで開催される「JAPAN EXPO」の担当者の目に止まり、出店の依頼があった。

ーーー「お店をやっていてよかったな」と思うのはどんなときですか?

守弘さん:お客さまに「これが欲しかったんです」「ここじゃないとないのよ」って言っていただけることは、何よりも嬉しいですね。

理恵さん:あとは地域の方々に「こんなに話ができるお店だったんだ」って言っていただいたときですね。お話しついでにいらっしゃる方も最近増えてきて、お手紙をいただくこともあって。そんなふうに、コミュニティの場として親しみを持ってもらえると私たちも嬉しいです。

守弘さん:こちらも「売った」「買った」だけじゃ終わらせたくないというか。そういうふうに使っていただけるとありがたいですね。

ーーー今は人とのつながりがドライになりがちなぶん、お客さまにとっても気軽に立ち寄れるのは嬉しいですね。

理恵さん:私もこういう場所があったらいいなと思うので、お客さまにもそう思ってもらえるように心がけています。

守弘さん:本当に売買するだけだったら、ホームセンターとかでも済む。でもそうなると、紙へのこだわりも薄くなってくるんですよね。「安いから、こんなんでもいいか」って。

うちはそうじゃなくて、お客さんが本当に納得したものを提供したいので、売買だけじゃないお付き合いも重視しています。

代替わりしてからは、お土産品も扱うようになった。写真は、デザイナー経験者のスタッフがすべて手作業で制作した「会津彼岸獅子」。

ーーー最後に、今後の展望として考えていることはありますか?

理恵さん:伝統は絶対に外せないというか、守らなきゃいけないと思っています。和紙ひとつとっても、スポットライトがあたっているところはいいんですけど、そうじゃないところもたくさんある。だから、販売する者としては、これらを絶やさないようにするのは責務ですよね。

なおかつ、私たちが世代交代したように、お客さまも世代交代していくわけで。そこで途切れてしまっては今度はうちが続かなくなってしまう。だから、移行した世代の方々にもアプローチできるような試みをどんどん打ち出していきたいです。

守弘さん:紙を作っている職人さんだって、紙が売れなければ辞めてしまうので、文化をいかにして残せるかってことが紙屋に問われていると思います。和紙という文化を絶やすわけにはいかないですから。そういう文化を守るのはうちの宿命だし、義務でもありますね。

ーーー武藤さん、ありがとうございました。

【武藤紙店】
・住所:〒965-0037 福島県会津若松市中央1-2-26
・電話:0242-24-0611
・メール:mutokami@yahoo.co.jp
・HP:https://www.aizukanko.com/souvenir/732
・Instagram:https://www.instagram.com/mutokami/

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mayu watanabe
愛犬と音楽をこよなく愛するフリーライター。 はじめて就職した会社でセールスライター経験を積んだのち、2018年に独立。ウィンタースポーツ・ローカル・旅行関連など幅広いジャンルの執筆を行なう。趣味はゴルフと1人カラオケ。