今回お話をお聞きしたのは、会津若松市でゲストハウスを運営する若きホープ、賀澤朝一郎さん。明るく朗らか、かつ饒舌にお話しされるその姿は、ゲストハウスのファンが続出するのも納得なほど。実際のゲストハウスにお邪魔しながら、「ちょうどいい距離感」で、ゲストハウスの特徴や会津若松の魅力、今後の展望などについて、熱い想いや愛を語っていただきました。
きっかけはシェアハウス。
---ご出身はいわき市とお聞きしました。会津若松でゲストハウスをやるきっかけについて教えてください。
会津大学に通っていて、大学1年生の頃に寮生活をしてたんですね。そこから友人と声をかけ合って4人でシェアハウスをはじめたんです。そうしたら、こんなに楽しいのかと。楽しいというか合理的じゃないですか。洗濯機は4人で一つでいい。お風呂場も一つでいいし、お金を出し合えばプロジェクターだって買えるし、大きな買い物もできる。家賃は4分の1になるわけじゃないですか。それぞれ光熱費込みで3万円ぐらいで住めるわけですよ。
そうしてシェアハウスで暮らしていたら、これは自分でもやりたいなと思って。
大学を卒業すると同時にいろいろ伝手をたどって、空き家を見つけて、4部屋ある一軒家を改修してシェアハウスとして学生に貸し出すというかたちでやってたんですね。
その後コロナ禍になって、意外と引っ越して来ない学生が多かった。そこでいいきっかけだと思って、2020年の8月にゲストハウスに切り替えたんです。
---もともとシェアハウスだったのが、ゲストハウスに変わったと。
そうなんです。
あと今年は移住をしたい人向けの建物を準備しようと思いまして、鶴ヶ城近くの宮町で、一戸建ての平屋を活用して、移住者向けに1~2週間から1ヶ月間など短期滞在を希望する方の受け入れをはじめているところです。
---「mooi guesthouse」の「mooi」とはどういった意味なんでしょうか?
「mooi(モーイ)」はオランダ語で「素敵な」「よい」「美しい」などといった意味です。僕、オランダが好きなんです。ビジネス上手なんですよオランダって。元々やっぱり東インド会社があったようなところですから、貿易も盛んですし、そういうところに憧れて。観光はもちろん、農業施設を訪問したり。ハネムーンでも行きました。
---農業もお好きなんですか?
元々農業が好きだったから、会津に残ったんです。3〜4年ぐらいはずっとどっぷり農業をしていました。
農業で食べていくことも考えましたが、元々いわき市の人間なので、土地と機械が必要なことを考えると、ハイリスク・ローリターンでして。そこで農業単体ではなく、宿泊業から農業を見てみると、プラスアルファで考えられるなって思ったんですよね。泊まっていただいたお客さまに農作物を販売するとか、宿に対する付加価値として飲食物を提供するっていう見方だと、いきなり農業が可能性のあるものになるんです。なのでそうしたアプローチの仕方で、農業にはもう一度触れにいきたいなって思っています。
旅をカスタマイズしたい方へ。
---実際に泊まられる方にはどういった特徴がありますか?
若い方だけではなくて、意外と年配の70代・80代の方など、いろいろな方がいらっしゃいます。
最近のゲストハウスを利用する方の思考としてあるのは、宿は安めにして街中を巡って外食したいなどといった、自分で旅をカスタマイズしたい人。そうした方々はゲストハウスに来られますね。
また最近は只見線が開通したので、それに乗られる方だったり、新撰組がお好きな方などが多い印象です。
---外国の方もよく来られますか?
水際対策が緩和されてきたので、今の海外の方の割合で言うと、全体の3割くらい。その内の大体8割は台湾・香港の方。残り2割はヨーロッパ系の方です。ヨーロッパ系の方の目的はトレッキングが多いですね。季節で言うと春や夏。近くの飯豊山に登りに行く方も多くいらっしゃいます。
お城もありますし、大内宿や塔のへつりなど、自然と歴史を求めて来られる方が多いというのが会津若松の特徴ですね。
---リピーターになる方の特徴などはありますか?
リピーターになる方は、ほとんどがライダーの方と、馬刺しや日本酒好き。あと電車や歴史好きの方。そこに全振りしてる人たちですね。
---ライダーの方が多いんですね。
多分なんですけど、会津若松って都内や神奈川の方からバイクで来られるギリギリの最北端なんですよ。仙台まで行けるけど疲れるし、到着が夜になっちゃうんですよね。だけど会津だと山道を通っても、朝から出れば夕方頃に着く。1泊してご飯を食べて温泉入って、次の日はまた別のルートで南下していくみたいな方が結構いますね。
あとは日本酒のこの銘柄が大好きとか、ピンポイントに日本酒と馬刺しだけ食べて、次の日の朝は喜多方ラーメンを食べて帰るとか、そういう方も多いですね。
つかず離れずのちょうどいい距離感。
---そうした目的を持って来られる方もいる一方で、例えばこういうおすすめスポットや飲食店があるよといったおすすめなどはされていますか?
もちろんです。
今日は何で来たのか-徒歩、車、電車で来たのかをまず確認して、そこで1回僕のデータベースで弾き出す。徒歩ならここらへんまでは歩けるな、車だったらあそこらへんまで行けるなって。あとは「これからディナーですか?」と聞くと、まだ決めていない方であれば「何かおすすめとかありますか?」と聞いてくださる。相手の反応を見て、これ以上聞いてほしくなさそうであれば「楽しんでくださいね」と。ちょっとレコメンドしてほしそうな方だったら、こことここに行くと完璧ですよとお伝えするようにしています。
---きちんとお相手の様子も伺いながら、対応されているんですね。賀澤さんなりのこだわりや宿のいいところってどんなところにあるんでしょう?
「つかず離れずの距離感を保つ」ということを心がけています。
やっぱりゲストハウスって聞くと、ガツガツくるオーナーさんだったり、喋らなきゃいけないのかなとか、身構えてしまう人も結構いるみたいなので。
うちは話したい方、話したくない方、どちらも好きにできるように、変に気を遣わせないようにしてはいますね。お部屋に篭らないで出てきて、飲みませんかって言ってくださる方は一緒に飲んだり、つかず離れずの距離感で接するようにしています。宿のレビューを見てたら、「いい感じの距離感をずっと保てるオーナーさん」だと言ってくれてたりもして。
会津をより好きになるための努力を。
---会津から離れようとは思わなかったですか?卒業されて。
まだまだこれからだと思っています。
僕は「地元愛」っていう言葉に疑問がありまして。なぜかっていうと、会津が好きなんですよと言った途端に、いいところも悪いところも含めて会津が好きみたいになっちゃう。そうしたらもう終わりじゃないですか。客観的に見えなくなっちゃうので。
---答えを出したら、思考停止になっちゃう。
あんまり好きとは公言してないんです。その代わりに「より好きになるための努力はしなきゃいけないな」とは思っています。リピーターになるはずだった方がリピーターにならなかったとか、次は来てくれなさそうだなっていうお客さまもいると思います。もっとその人たちにとってバチンとハマる会津の旅行体験を追求して、会津のファンが増えてきたぞってなったときに初めて、会津が好きだと言えるのかなと思っています。
---より好きになるための努力。
それを止めない、やめちゃいけないなって思うんですよ。
---それこそが愛ですね。
あとは移住という観点で僕みたいな人を増やしたいなって思ったときに、商売が成り立つ状態、つまり会津でできる仕事を増やさなきゃいけないと思うので、市町村単位でビジネスライクに見なきゃいけないとは思っています。
僕みたいな人間が仕事ができて家族を作ることができるってことがひとつの証明になるわけじゃないですか。
本当にここで自分が生きていけるの?とか、なんか勢いで来ちゃったけど、本当にこの仕事あるの?とか、結局仕事がなくて補助金がないと生活できないような状態にならないかな?とかってなっちゃったら、それこそ本末転倒だと思うので、割と会津とビジネスライクに付き合ってると思ってます。会津好きなんですけどね。本当にお酒も馬刺しも美味しいし。
---ゲストさんとの距離感だけじゃなくて、街との向き合い方もいい距離感ですね。
会津を、ゲストハウスを、もっと身近に、面白く。
---最後に今後の展望を教えてください。
移住者向けの間口は増やしていきたいなと思っています。やっぱり「移住する」ことのハードルを低くするのがすごい大事だなと。
移住っていう捉え方も見直したくて。冬場だけスノーボードを夜ナイターでやりたいから、日中は会津でリモートワークする人とか、春先だけ、夏場だけ会津に来て、ちょっと山登りしたいなとか、そういう気軽な選択肢としてスポットで来てもらいやすい環境っていうのが今の会津だったら作れるんじゃないかなって思います。
あとはゲストハウスも、ただ普通のゲストハウスが増えるだけじゃ面白くないので、コンセプトのある宿というのもやりたいですね。そこでやっぱり「農業ゲストハウス」、つまりゲストハウスのやってる農家。宿がメインで、たまたまそこで野菜が食べられるよ、ぐらいのラフさの農業ゲストハウスはやりたいなと思ってますね。