取材記事

住まいの再生と会津の新しい暮らし【wowroom】

最近、「リノベーション」という言葉を耳にする機会が増えました。リノベーションとは古い建物の性能を向上させながら改修し、その建物に第2の新しい人生を与えることです。

会津若松市で新しいリノベーションのプロジェクトが始まったと聞き、完成した物件をさっそく訪ねてみました。外観から40年以上経った住宅だとは想像もつかず、新築の住宅と見分けがつきません。

家の中は会津の木材をふんだんに使って、ぬくもりのある空間に仕上げたとのこと。

このプロジェクトを立ち上げた3人の、会津の住まいやライフスタイルに対する思いを取材しました。

プロフィール

齋藤 康平(さいとう こうへい)さん
建築家。「会津の暮らしをちょっと楽しく、ちょっとかっこよく!」をコンセプトにリノベーション事業、新築事業を行う wowroom 代表。中古住宅や空き家対策事業もしている。

関根 健裕(せきね たけひろ)さん
南会津産の木材を扱っている関根木材株式会社、クラフトビール製造を行う南会津マウンテンブルーイング / Taproom Beer Fridge 代表取締役。

大竹 勇雄(おおたけ いさお)さん
行政書士。不動産コンサルティングを行うホームタウン株式会社 代表取締役。

循環する社会を目指して

―――新しいリノベーションのプロジェクトを3人で立ち上げたきっかけを教えてください。

大竹さん:住宅は新しく建てるという考えが主流なのですが、空き家が増えていく中、「新築の家以外の選択肢はないのか?」と疑問を持つようになりました。

そんなとき齋藤さんが、「リノベーション」という空き家の活用法を教えてくれたんです。新しい循環する社会をつくりたいという思いにも共感しました。

会津若松市は「街中の空き家をリノベーションして住む」といった市場が育っていない状態でした。風穴を開けて市場を開拓したいという、齋藤さんの気持ちにも賛同しています。

齋藤さん:多くの方は新築を建てるので、中古住宅をリノベーションして住むということがなかなか選択肢にあがってこないですよね。

ただ、新築ほどお金をかけられない方もいます。そんな方々へ中古住宅を購入し、リノベーションして暮らすという選択肢を広めたいと思いました。

全国的に空き家が増えているじゃないですか。

そのまま放っておくと朽ち果てて、景観的にも悪い場所になってしまう。そこに手を入れて景観を損なわず、人が住むことによって新しいコミュニティができる流れをつくりたいと考えています。

関根さん:会津の木材資源の活用を、ずいぶん前から進めていました。会津地域を見回しても、会津の木材で建築している建物はほとんどないんです。

ここにある資源を後世に残すためにも、 製材という産業を残すためにも材木を使わなくてはいけない。出会った10年前から、齋藤さんとそう話してきました。

この家は僕らのコンセプトハウスとして建てたので、フローリングに会津産の栗の木を使うことにしました。このフローリングは会津材の利用活用で製造を始めたものです。

今回、初めて使うことになりました。

―――会津若松市の空き家問題は深刻な状態なのでしょうか?

大竹さん:空き家が流通しないせいで、どんどん郊外に建物が建つようになりました。そのため街中には空き家が増え、人はどんどんいなくなってきています。

齋藤さん:街中には新築が建てられる土地が少ないんですよ。なので、みんな郊外に建てることが多くなってきている。

大竹さん:中古不動産は抵抗がある人が多いのが実情です。「家が曲がっているんじゃないか」、「シロアリがいるんじゃないか」といった不安を持っている。

中古の不動産を見ても購入に至らず、新築を選ぶ人が多いですね。

この物件を建てることで、建物のメンテナンスや検査をしっかりやれば、新築以上のクオリティを中古住宅でもつくれると齋藤さんが立証してくれました。

―――新築よりもお値段は安くなっているのでしょうか?

齋藤さん:物件ごとに違うので一概には言えませんが、だいたい新築の70〜80%ぐらいの金額です。施主さんがどこまで家を改修するかによって、変わっていきます。

大竹さん:家をどこまで直すかは選ぶことができます。中古住宅だからできないではなく、中古住宅だからより選択肢が増えるんですよ。

―――空き家対策が目的でこの家をつくったのですか?

齋藤さん:建築の仕事が、空き家対策につながったのだと思います。空き家対策とリノベーションの事業は相性がいいんです。

大竹さん:町場にはリノベーションに向いた物件が多いんです。築40年、50年という建物は、町中の雰囲気とも相まって情緒が出てきます。こうしたモダンな建物があると、移住してきた方などにもよろこんでいただけると思います。

齋藤さん:昔から住んでいる人と移住者のコミュニティが生まれたら、面白いですよね。

―――会津産の木材を使うメリット、ほかの木材との違いを教えてください。

関根さん:山って手入れをしないとダメになっちゃうんですよ。森林伐採は環境破壊だと言われますが、日本にあるほとんどの山は人の手が入ってます。

手をつけてあげないと、健康な山になっていかないんですよね。木材が低迷して手をかけられなくなったので、不健康な山が多いんです。僕らが製材所という仕事を残していかないと、山がどんどんダメになっちゃう。

齋藤さん:会津は酒どころであり、米どころじゃないですか。水は山からつくられるので、山が健康だと美味しいお酒やお米につながりますよね。

関根さん:海外では、丸太をそのまま輸出している国ってほとんどないんですよ。加工して製品にするまで、自分の国にお金が落ち続けるじゃないですか。

でも会津は、加工していない丸太を輸出したり、外国から安い木材を買ってきたりしてる。長い目で経済のことを考えていくと、いいことではないですよね。

地域でできたものは、その土地でとって流通させる、経済流通を考えていくことが大切だと思います。

齋藤さん:昔は裏の山の木を切って、建築するのが当たり前だった。昔の普通に戻してこようって。

新しいリノベーションプロジェクトのかたちとは?

―――齋藤さんがリノベーション事業を始めたきっかけは?

齋藤さん:もともと古い建物が好きで、「活かしたいな」という単純な思いから始めました。物件の間取り情報を見て、妄想するくせがあって(笑)。それが今の仕事につながったんですかね。

―――お客様の依頼がある前から家を建てて販売しているのですか?

齋藤さん:ターゲット層をイメージして、家をつくっています。でも、住む人がカスタムできるように少し余白を持たせたつくりになっているんです。

―――今、こういう形でやっている物件は他にありますか?

大竹さん:古い家をリノベーションのコンセプトハウスとして売るのは、知るところ、会津では前例がないと思います。

―――今後もこの形式でリノベーションのプロジェクトを続けていくのでしょうか?

齋藤さん:地域の方の反応をみながらですけれども……。

関根さん:お金の話になって申し訳ないですが、この家のフローリングは一般の住宅で工務店が使っているものの、2〜3倍の値段です。

すべて純粋な会津産の栗の木なんです。その床を選んでも、安価で出せるのがすごい。

齋藤さん:新築だとコスト的に採用できない材料を、リノベーションでは採用できるメリットがあるんですよね。

―――前例のないことを、なぜこの3人でやろうと思ったのですか?

齋藤さん:以前から関根さんと話し合っていた、会津の循環を具現化してきました。そして古い家をリノベーションして売るには、不動産屋さんが必要なんです。

大竹さん:法律で不動産を転売するには、許可を取らなきゃいけないんです。

齋藤さん:大竹さんがいないと、できなかった。いい役割分担ですよね。

―――この家を建てるために、大竹さんが出資しようと思った一番のポイントは?

大竹さん:齋藤さんと関根さんが自信を持っていたことですね。やってみた結果、損が出てしまってもいいかとも思っています。挑戦してなにかひとつでも会津の住宅市場に選択肢を提示できれば、やってみた価値があります。

齋藤さん:購入した人が持っている、家に対する価値観が変わるといいですね。

大竹さん:この家を見て、新築建売を買おうと思っていた人に「変わらない値段で、リノベーション住宅だとこんな家が買えるの!?」と驚いてほしい。

リノベーションという選択肢を提案したいですよね。

齋藤さん:心が豊かになる家を提供していきたいと思います。

―――築40年、50年経った家をリノベーションするとどのくらいもつのでしょうか?

齋藤さん:今の建築基準の耐震に合わせてつくっていますし、耐震補強もしたので長く住めますよ。

関根さん:材料だけなら果てしなく使い続けられます。

齋藤さん:栗の木って、かなり耐久性が高いですよね。

関根さん:昔の家は、100年、150年住めるのが当たり前だったんです。

歪んていたり、曲がっていたりしても現在の技術で直せるし、材木が悪くなっていたら交換すればいい。そうすればずっと住むことができます。

大きな変化は、小さな気付きから

―――会津の若者へ向けてメッセージをお願いします。

大竹さん:前例主義ではなく、多少、リスクをとって挑戦してほしいと思います。

齋藤さん:会津は盆地になっていて、振り向くとすぐ山がある。ちょっとでもいいので、山のことを意識してみると物事に対する見え方が変わってくるはずです。

まずは身の回りのことを、少し気にかけてもらえたらなと。

関根さん:若い人たちにも身近な産業や経済に目を向けて、積極的に応援してほしいですね。

―――仕事のお手伝いでしてほしいことは?

大竹さん:メディアでもっと会津の人たちをピックアップして、外へ紹介してほしいと思います。

齋藤さん:会津の地域性、人間性なのか、発信力がちょっと弱いんですよね。それをサポートしてくれる人材は必要ですね。

関根さん:自分で発信してもいいですが、第三者が入ると信用性が高くなりますよね。

大竹さん:昔から、「いいものはあるけど、商売が下手だ」と会津の人は言われています。そういった苦手な分野を解消するために、代わりに情報発信して、地元のいいものを紹介してくれる人材が欲しいですね。

齋藤 康平(さいとう こうへい)さん
建築家。「会津の暮らしをちょっと楽しく、ちょっとかっこよく!」をコンセプトにリノベーション事業、新築事業を行う wowroom 代表締役。中古住宅や空き家対策事業もしている。
URL:https://makewow.jp/

関根 健裕(せきね たけひろ)さん
南会津産の木材を扱っている関根木材株式会社、クラフトビール製造を行う南会津マウンテンブルーイング / Taproom Beer Fridge 代表取締役。
URL:http://sekine-mokuzai.co.jp/

大竹 勇雄(おおたけ いさお)さん
行政書士。不動産コンサルティングを行うホームタウン株式会社 代表取締役。
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古川恵子
1981年喜多方市出身。福島大学卒。2004年から東京都在住。あいづっぺでぃあには運営側で関わりつつ、ライターとしても活動しています。 普段は自営業主様、小規模事業者様向けに、ホームページ制作、ワードプレス講座、情報発信事業などを行っています。