取材記事

【山田民芸工房】残したい会津の心 – 手仕事に込められた伝統と思い

起き上がり小法師、風車、会津初音。

この三つを聞いて、会津のお正月や十日市(会津で四百年以上も続く、毎年一月十日に開かれる初市のこと)を思い浮かべた人は地元の方か、かなりの会津通だと思います。

これらは【会津三縁起】と呼ばれ、特に【起き上がり小法師】と【風車】は、この十日市になくてはならない会津伝統の縁起物です。

今回は、そんな会津伝統の縁起物たちを手仕事で作り続けている【山田民芸工房】さんの山田賢治さん、由紀さんご夫婦にお話しを伺いました。

【会津三縁起】

会津三縁起。冒頭でご紹介したように、数ある会津の民芸品のなかでも、特にお正月を代表する三つの縁起物です。

もともとは約四百年前、蒲生氏郷が藩主だった時代に無役の藩士に作らせ、家内安全・無病息災を祈る縁起物としてお正月に売られていたのが始まりです。

山田民芸工房さんで起き上がり小法師などを購入すると同封される説明書。会津三縁起の由来が書かれている。

昔ながらの縁起物の面白いところは、材料や色、形など随所に験担ぎが散りばめられているところ。

もちろん会津三縁起も例外ではありません。

左は風車。
文字は左上から時計回りに「寿」「福の神」と読む。
切り絵は銭、鏡餅、宝船、盃。
右は上段が起き上がり小法師、下段が会津初音。

中でも面白いと思ったのが風車です。

色の組み合わせは何通りかありますが、共通しているのは、赤い紙とそれ以外の色の組み合わせで出来ていて、切り絵は必ず赤い紙に貼られていること。

中心部分の黒いものは黒豆。マメ(元気)で良く働けるようにという験担ぎ。

山田さん曰く、これは赤は縁起の良い色であるため必ず使うものの、赤に文字を書くことは「赤字」を連想させるため、御法度だからなのだそう。

逆に赤と黒の組み合わせの風車は、黒い部分に文字を書くことから「黒字」を連想させるので、商売をしている方に好まれるそうです。

ウグイスの鳴き声に似た音を出す、会津初音。親指と中指または人差し指で穴を押さえ、赤い糸が巻いてある口の部分を吹く。

また会津初音は、吹くとウグイスの鳴き声のような音を出す縁起物。

長い冬にほのかに春の到来を匂わせる、心がほっこりする民芸品です。

【山田民芸工房さんの起き上がり小法師】

さて、三縁起の中で最も有名なのは、やはり起き上がり小法師。

その名の通り、傾けても転ばせても必ず起き上がるというところが、災害の多い日本に暮らす私達を元気づけてくれるような心温まる民芸品です。

家族や財産が増えますように、という願いを込めて家族の人数よりひとつだけ多く購入し神棚に飾り、1年が終わると歳の神(さいのかみ)という、いわゆるお焚き上げで燃やすのだそう。

中央の2組が山田民芸工房さんの起き上がり小法師。
後列左側の2組はお土産物店でよく見かけるもの。
後列右側は起き上がり小法師のガチャガチャで入手した変わり種。

そんな年の始めにふさわしい縁起物である起き上がり小法師ですが、特に東日本大震災以降、頑張ろう、立ち上がろう、という強い思いとともに会津のみならず広く知られるようになってきているとのこと。

この小法師。素材は一見、紙粘土のようにも見えますが、いったい何でできているのでしょうか?

左から作成順に並べたところ。
下段は素地の材料。左から、和紙、ニカワ、胡粉(貝殻を焼いて砕き、粉にしたもの)。

山田さん:これは和紙ですね。

—なんと、これは紙だったんですか!

山田さん:そうですね。まず木型に和紙を三枚くらい貼り付けて乾燥させ、真ん中に切り目を入れて型から外し、底に合うように壁土を使った重りを作る。(写真の左から1〜4工程目)

和紙を使うのは、濡らしたときに伸縮性や弾力があってなじみやすいので、綺麗に貼れるからなんです。

山田さん:重りを底に付けたら、次に胡粉を使って白く塗ります。このとき使うのがニカワ。ニカワは昔は接着剤として使われていたもので、これを溶かし胡粉と混ぜ合わせて塗ります。

塗ると固くなりますよ。

あとは黒塗り、赤塗りといって、合成漆でできた塗料を順番に塗っていき、最後に顔を描いて完成です。

山田民芸工房さんでは絵付け体験も行っています。
写真は体験用の見本に使われる色々な小法師。

シンプルなようで、意外にも工程が多いのですね。これは綺麗に作るのにコツが要りそうです。

山田民芸工房さんでは絵付け体験も行っていますので、気になった方は是非、挑戦してみてくださいね。

【山田民芸工房さんの、残したいもの】

効率化、利便性、利益。

手仕事の民芸品とは、そういった言葉からある意味最もかけ離れた所にあると言っても良いと思います。

人が作るということ自体が非効率と言われてしまう世の中で、山田さんがあえて手仕事で作り続けている理由とは—。

左が山田民芸工房の小法師。
右は市内の土産物店で良く見かける小法師。

山田さん:昔から変わらないやり方で作っている。これがうちのこだわりなんです。

最近は色々と機械化してきています。小法師も、確かに機械化すれば量産できるし利益も出る。だけどやっぱり会津の昔からの作り方を、人の手で作ったものを民芸品として残していきたい。

人が作ったものだから、作り手の心持ちが小法師の表情に出ることもありますよ。

怒ったような顔になることもあるけれど、その表情を見て「あぁ、自分も怒りっぽいから親近感がわくなぁ」と言って買っていかれる方もいますし、起き上がるときの勢いで選ぶ方もいる。

手作りのものにはそういった味があるし、買い手が選ぶ楽しみもありますが、機械化してしまったらそれが失われてしまいますから—。

ご先祖の方が作った昔の小法師。顔は竹串の先を使って書いていた。手作りだからこそ、形や表情に作り手の個性が見え隠れする。

一口に民芸品といっても、器や生活道具と違い縁起物は必需品ではありません。それでも何百年も残り続けてきたのは何故なのか。

私はその答えが、山田さんのお話しの中にあるような気がしてなりませんでした。

縁起物とは人の願いや祈りを託すもの。そして、そこにあるのは人間の「体温」だと思うのです。

小法師と同じく会津を代表する民芸品、赤べこ。
こちらは主に野沢民芸さんのものを取り扱っています。

機械で作るものは効率的で美しく正確です。しかし、完璧に美しくなくてもいいから人の手で作られたものが欲しい。

そう思う人が一定数いるのは、人が作ったモノ特有のいびつさに、込められた「何か」、そして温かみを感じられるからだと思うのです。

そして、それこそが長く残ってきた理由なのではないでしょうか。

【これからのこと】

山田さん:課題は、やっぱりどうやって続けていくか、残していくか、ですね。

「手仕事で、残したい」

そのお話しの後に山田さんご夫婦が続けたのは、やはり伝統工芸や民芸品の世界では誰しもが口にする一言でした。

店内に置いてある起き上がり小法師のガチャガチャ。
こちらは重りの部分に様々な色の会津木綿が巻いてある。

例えば、風車なら中心の竹を編む部分を作れる人がいない。小法師も、今では蔵を建てる人もいなくなってきたので、重りに使う壁土を調達するのが簡単ではなくなってきている。

何より季節物であるこの仕事を専業で続けていくのはとても大変、と。

しかし、それでも残したい、残って欲しい。そう願うのは作り手だけではないと確かに思う瞬間が、この取材の間にも何度もありました。

こちらも店内に置いてあるガチャガチャで手に入る
「開運 起き上がり小法師」。

「十日市で買い損ねたから」

そう言って起き上がり小法師や風車を購入しに来るお客様が何人もいらしたのです。

若い人達にこそ興味を持ってもらい、次に繋げてほしい。そんな思いも語ってくださった山田さんですが、次々に訪れる町の人達の姿は「きっと残ってくれるに違いない」と感じさせるものがありました。

【最後に】

会津の民芸品は励ましの縁起物。辛い時に落ち込むのではなく、これを見て頑張って一歩踏み出してみてほしい。踏み出す力強さを忘れないでほしい—。

若者・よそ者へのメッセージをお願いした際、山田さんご夫婦はそう語ってくださいました。

折しも災害や病気の蔓延に意気消沈しがちなご時世ですが、災害にも不況にも病気にも負けずに、いつかまた、必ず起き上がれますように。

そんなささやかな願いを込めて、山田民芸工房さんの起き上がり小法師をひとつ、側に置いてみてはいかがでしょうか。

山田民芸工房さん、今日はありがとうございました。

【取材先情報】

店舗名山田民芸工房
住所福島県会津若松市七日町12-35
電話番号0242-23-1465
営業時間8:00〜17:30
定休日不定休

※絵付け体験は4月〜10月中旬の9:00〜16:00。1人800円〜。

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石川麻愛
東京⇔会津を行ったり来たり。 鶴ヶ城が大好きなよそ者ライターです。