取材記事

【会津中央乳業】「べこの乳」で酪農家と消費者をつなぐ”あいづの牛乳屋さん”の変わらぬ理念

会津に住んでいる人なら、スーパーの牛乳売り場にある「べこの乳」「会津の牛乳」のパッケージを知らない人はいないでしょう。
会津の牛乳そのままのおいしさを届けたいと、昭和23年の創業以来、良質な牛乳を家庭へ届け続けている会社が「会津中央乳業」です。
今回は、会津中央乳業の二瓶孝文さんに「会津の牛乳メーカー」としてのこだわりや、会津の牛乳のおいしさの秘密を聞いてみました。

牛乳の美味しさは、「産地」と「殺菌方法」で決まる

―――会津中央乳業は二瓶さんで三代目になるんですか?

二瓶さん:わたしの父がいま二代目社長で、わたしが営業、わたしの兄が工場の方を主に担当しています。子供の時からトラックに乗って牛乳配達の手伝いをしていました。お客さんに勧めた牛乳をおいしいと言って飲んでもらえるのが嬉しくて、将来は自分も牛乳屋の仕事ができればいいと思っていました。

―――会津中央乳業さんの牛乳は、甘みがあっておいしいと感じます。何が違うんでしょうか?

二瓶さん:牛乳の味を決めるのは「産地」と「殺菌方法」です。
牛乳を殺菌する場合、高温で殺菌するほど効率がいいですが牛乳本来の風味や甘みが失われてしまいます。
一般的な牛乳は、130度で2秒間殺菌しますが、「べこの乳」の場合、専用のタンクを使い85度で15分かけてゆっくり殺菌することで、甘みとコクを残したままのおいしい牛乳を販売できるんです。
この殺菌方法が、酪農家さんが搾りたての牛乳を鍋で沸かして殺菌するのと同じ味になる秘密です。

―――会津の気候も牛乳のおいしさに関係がありますか?

二瓶さん:そうですね。寒暖の差が激しい気候もありますが、一番は酪農家さんの努力ですね。
牛は、常に食べているか寝ているかの動物なので、いかにストレスなく育てるのかが牛乳の味を決めます。
酪農家の皆さんが大変な仕事でもやり続けるのは、牛が好きだからなんですよね。酪農は、この世の中に無くてはならない産業だというプライドを持っていて、それぞれの酪農家さんに哲学がある。
わたしたちのやっていることは、そんな酪農家さんと消費者さんとをつなぐ橋渡しです。
本当に、”おいしいものをおいしいままに”家庭に届けたいという気持ちで作っているのが「べこの乳」ブランドなんです。

―――牛乳も「会津ブランド」を大切にしているんですね!

二瓶さん:パッケージの磐梯山は、ちょうど会津中央乳業の工場から見た磐梯山の姿なんですよ!ここから見た磐梯山がきれいだと、父(二代目社長)みずからデザインしています。

「べこの乳」のパッケージは社長デザイン。工場から見た磐梯山の姿にこだわっている。

二瓶さん:それでも、東日本大震災のときは、福島の原乳は出荷がストップになってしまって仕入れられず大変でしたね。
「会津ブランド」にこだわっていたから、会津の酪農家さんが復活するまでは生産したくなかったんですが、病院や赤ちゃんなど、牛乳が必要な人たちがたくさんいたので、そうも言っていられない状況でした。だから、その時ばかりは岩手県から助けてもらい、原乳を仕入れて供給したんです。

その時はパッケージからも「会津」の表記を除きました。

震災の時は緊急時だったので、産地の表記の取り締まりはしないということになっていました。だから「会津」と表記しても問題はなかったのですが、消費者から見れば会津産の牛乳が出回っていると思われるので、誤解を生まないように消すしかなかったんです。

会津ブランドにプライドがあったから、つらかったですね・・・。

消費者に「牛乳の価値」を知ってほしい

一番左側が、震災後に「会津」の表記を消したパッケージ

―――若い人に向けてのメッセージはありますか?

二瓶さん:今の若い世代の人たちは、そもそも牛に触ったこともないし、牛乳がどうやってできるか知らないですよね。それもあって、牛乳の価値が下がっている現状があります。
牛乳って、スーパーでは水よりも安い値段で売っていることがあるんですよ。牛乳は安いものだと1Lで178円程度で売っていて、ミネラルウォーターは500mlを2本買えば200円だったりしますよね。
牛乳を販売するまでには、酪農家さんが一生懸命牛を育てて、乳を搾って、工場で加工して、とんでもなく手間ひまがかかります。それなのに水より価値が低いのは、やっぱり私たちがお客様に牛乳の価値を伝えきれていないからだと思います。

二瓶さん:何を伝えたいかというと、お客様に「値段以外のものさし」を持ってもらいたいんです。
お客様は、値段のものさししか持っていないから、スーパーにずらっと並んだ牛乳の中から、一番安いものを手にとってしまう。
もしかしたら、その安いパックは、本来の牛乳ではなく成分調整牛乳なのかもしれないけど、安いから気にせず買っている。

そういう、安さだけで食材を選んでいたら、食卓がどんどん貧しくなっていくのが寂しいです。安さ以外の「味」「産地」「想い」などの色々なものさしを持って、食べるものを選んで欲しいんです。
食材を選ぶ楽しさ、パッケージを見比べる楽しさが、食卓の楽しさにつながると思うので、安い特売品だけを選ぶところから意識を変えていってもらいたいですね。
そんな、牛乳の本当のおいしさを知ってほしくて作ったのが「会津のべこの特濃 もうひとしぼり」です。

生乳100%の特濃牛乳 「もうひとしぼり」

二瓶さん:特濃ですが、加工乳ではないんです。普通、味を濃くするには添加物を加えて作るんですが、この「もうひとしぼり」は、フィルターに牛乳を高圧で押し込んで濾過して水分を抜いて濃くするので生乳100%の特濃牛乳です。

牛乳から水分を抜くための濾過フィルター

二瓶さん:特売の牛乳の2倍くらいの価格ですが、それでも選ぶ価値のあるおいしい牛乳ですよ!
工場見学に来た子どもたちに味比べしてもらうと、「おいしい」「甘い」「いい匂いがする」と好評です。

牛乳は「賞味期限」で捨てないで!

―――他にも子どもたちに対しての活動はありますか?

二瓶さん:毎年6月の第3日曜日を乳の日(=父の日)として、酪農家さんに子ウシを連れてきてもらって「子ウシふれあい体験」をしています。2019年が11回目だったんですが、3000人ものお客さんに来てもらえました。
実際に子ウシに触れてもらうことで、自分が飲んでいる牛乳がどうやってできるのかをリアルに実感してもらうきっかけになりますよね。
酪農家さん側も、自分たちが搾った牛乳を飲んでくれる消費者の顔を見て、もっとおいしい牛乳を出荷しようというモチベーションになります。

子どもたちに限らず、牛乳のことを知らない人が多いです。
例えば、牛ならなんでも牛乳が出ると思っていたり、牛はツノがないのがメスだと思っていたり。
赤ちゃんを育てるためにお乳が出るのは、人間も牛も一緒なんですよね。私たちは、子ウシを育てるための牛乳をいただいているわけなんです。

だから、1日でも賞味期限が切れたら捨ててしまうのはもったいないです。
「賞味期限」は、その日までに開封して飲みはじめてくださいという意味なので、その日までに飲み切る必要はないんですよ。

「賞味期限切れたけど飲めますか?」というお問い合わせもよく来ますが、その場合簡単に見分ける方法があって、それは牛乳を電子レンジで温めてみること。固まらなかったら飲めます。

―――なるほど!牛乳の消味期限って短いと思っていましたが、すぐに飲めなくなるわけではないんですね!

牛乳パックの上部の「くぼみ」が牛乳を見分けるポイント。

二瓶さん:あと、スーパーで「牛乳」と低脂肪牛乳や加工乳等を見分けるには、パックの上の部分をなででみてください。ちょっとくぼみ(=切り欠き)があるのが「牛乳(成分無調整)」の証です。

―――この知識があれば、安い牛乳だと思って買ったら加工乳だった!という失敗を防げそうですね。これからはスーパーで見てみます。

世のため人のため、なくてはならない産業を続けていく

―――最後に、会津に興味のある若者・よそ者へのメッセージをお願いします。

二瓶さん:若い人ほど情報が多いから、人の真似をしてしまったり、本当にやりたいことがぶれたり、選択が難しいことが多いと思います。そんなときに、最初の気持ちや理念を忘れずに、軸がぶれないことが大事ですね。
「べこの乳」ブランドを広めることも大事ですが、本当に大切にしているのはおいしい牛乳を飲んでもらうことです。
だから、他社の商品開発のために原料供給をすることはありますが、「べこの乳」を前面に出した売り方はしません。
ブランドで売るのではなく、本当に「おいしいから」という理由で買ってもらいたいんです。

曙酒造のヨーグルトリキュールに会津中央乳業のヨーグルトを提供しているが、ブランド表記はあえてしていない。

二瓶さん:目先のものに惹かれてしまうことはあります。
でも、お金儲けだけを考えず、牛乳を通して世のため人のために永続的に続いていける企業であれたらと思います。

―――貴重なお話をありがとうございました!

お話を通して伝わってきたのは、会津の酪農家さんが想いをこめた牛乳を、そのままのおいしさで家庭に届けたいという強い信念です。
牛乳の生産量は、お茶や清涼飲料水に押されて減少傾向だといいますが、そんな時だからこそ、会津中央乳業はおいしさで選ばれる商品づくりに余念がありません。

わたしも、いつものスーパーの牛乳売り場をゆっくり見渡すようになり、自然と「べこの乳」に手が伸びるようになりました。
あなたも、「値段」だけではなく、「おいしさ」と「想い」で商品選びをしてみませんか?

会津中央乳業株式会社の詳細情報

住所:〒969-6521 福島県河沼郡会津坂下町大字金上字辰巳19-1
TEL:0242-83-2324
ホームページ: http://aizumilk.com/

アイス牧場
営業時間:10:00~17:00(11月~3月は11:00~16:00)
定休日:1月~3月の毎週水曜日

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奥田美咲
岩手県出身。単独登山とソロキャンプを愛するWebライター。 夢はサウナ付きの山小屋を建てること。