取材記事

「想い」と「祈り」が交わる心の交差点-【田子山 壽徳寺】

 JR磐越西線 上戸(じょうこ)駅から歩いて約15分。国道49号線の南側に位置し、田畑に囲まれた静かな集落の少し奥にあるのが、今回ご紹介する壽徳寺(じゅとくじ)さんです。お話を聞かせていただくのは住職の松村妙仁さん。「お寺ってどんなところ?」「普段は何をしているの?」「一度、お寺に行ってみたい」とお考えの方、ぜひこちらのインタビューをお楽しみください。

田子山 壽徳寺のご住職 松村妙仁さん

—こちらのお寺ができてからは、どのくらいになりますか?

 この山潟地区が村としてまとまってきたのが今から500年前の室町時代頃と言われていますので、このお寺が創建されたのもそのあたりでしょうか。詳しい資料が残っていないので、町の歴史書に書かれていることしかわからないのが現状です。

—ご本尊をご紹介ください。

 薬師如来、日光菩薩と月光菩薩を祀っていて、なかでもお薬師様は心と体の健康にご利益のある仏様です。左手に心の病でも体の病でも効く薬が入った「薬壺(やっこ)」という薬の壺を持っています。

湯川村の勝常寺さんをはじめ、会津にはお薬師様を祀るお寺は多いですね。古い時代に薬師信仰が流行った時期があり、その影響は大きいかと思います。

—お坊さんも長くご住職の家系が務めておられるのでしょうか?

いえ、父は会津若松の生まれでして、住職がいないお寺であるこの猪苗代に赴任いたしました。 私自身はここで生まれ、高校は会津若松に通い、大学進学で上京し、そのまま東京で就職しました。

震災が東京から戻るきっかけに

—先代の住職から引き継がれた経緯をお聞かせください。

お檀家さんのために、そして、福島のために祈りを重ねる

 2009年に父が亡くなったことと2011年の東日本大震災が大きなきっかけです。

 父が亡くなってみると父の存在って大きいなと思いました。人生の半分くらいは好きなことをやってこられたこと、また、私もお檀家さんに育ててもらったなという想いが募り、人生の残り半分はお檀家さんや恩返しのために福島の何かができたらいいな、とか思って戻ってきたという流れです。

—猪苗代に戻ってくることに関しては特に抵抗はありませんでしたか?

 まあ、昔は帰るつもり本当になかったのですが、いろんなタイミングが重なったかなと思います。父が亡くなって新たに気づいたこと、東日本大震災や原発の問題で福島の状況を見聞きするたびに、福島に戻って福島のために何かできないか?という思いが強くなりました。振り返れば仏様に呼ばれたのかなと思います。

健康と安寧を求めてたどり着いた結論~「想い」そして、「祈り」

悩みや苦しみを感じるときにこそお寺で心安らぐ時間を

—ブログに三密について書かれていましたが、この昨今の新型ウィルス感染症事情について思うことはありますか?

そうですね、コロナは特に会うことが制限されます。なので、どうしたらいいのだろうと悩んで苦しんでいるときにこそお寺に来ていただいて、心安らぐ時間を過ごして頂ければなと思います。お寺やお坊さんが何ができるのか、と考えた時、1日でも早くコロナが収まり、また、1日でも早く日常が来るよう祈るしかないのかなと思いながら、どうしたらいいのだろうと思いながら過ごす毎日です。

—特にお寺は人が集まる場所ですね。

2019年7月に行われたお祭りの様子

毎年7月には地域伝統のお祭りを開催していました。

30年以上やっていなかったお祭りをお寺の行事として2年前に復活させました。小学校も廃校になり集落全体で集まるお祭りがなくなる状況なので、年齢に関係なく一緒に過ごすお祭りができたらなあ、と。このお祭りは疫病の神様である「天王さま」のお祭りですので、こんな時だからこそ疾病から守るために祈ることも大事ですし、ご先祖様から繋がってきたお祭りですので、今後も大事にしていきたいですね。

—一般的なお寺というと「葬式仏教」と言われ、ご年配の方が葬式しか来ないという一般的な印象を受けますが、ご住職はどう思われますか?

 そうですね、集落の方に訊くと父もここで子供たちを集めてそろばんを教えたりしていたらしいので、やはり人生の修行道場と言うか、節目節目の時に集まる、安全な場所であるのがお寺なのかなと思っています。いろんな悩みを持っている方とかもちろんですが、心を体のご利益のあるお薬師様のお寺なので、このお薬師様のご縁を頂いて、心と体が元気になるような健やかに過ごせるようなことができたらなと思っています。

 お寺は皆さんが来てもらったり集える場所であり、お葬式だけのご縁だけではないのです。仏教の元々の教えは生きる智慧なので、生きている時から仏教とご縁を頂いて、少しでも生きるヒントになって下さったらいいなと思っています。

食材も器も地元産にこだわった精進料理
精進料理の会の様子

 この写真は私の知り合いで箱根でフレンチシェフもされているお坊さんをお招きして、会津の小菊かぼちゃや地元野菜を使って、精進料理を味わう会を開催したものです。器は会津塗で、福島のいいものと仏教のいいものを五感で体験する会です。申込開始からあっという間にいっぱいになってしまい、人気の高さに驚きました。その他にも、写経や写仏、ヨガ、仏教音楽コンサートなど開催していますが、毎回、郡山、会津若松、白河、福島など町外からも多くの方に参加いただいております。

外に飛び出して分かった、 地域のあたたかさ・私の居場所

—準備するだけでも大変ですね。

 東京で音楽関係のコンサートとかイベントを企画する会社にいたので、自分も楽しみながらやっているというのも大いにあります。町外の方も来ていただいて地元の方と交流してもらいたいなという想いもありいろいろ告知しているところです。

毎回好評のお寺ヨガの様子

 田舎が嫌だからと東京に行ったものの、外に行ってみると福島にはいい所もいい素材もある。新しいコトやモノを生み出さなくとも、素材そのものがいいのだから、その良さを知っていただく見せ方の工夫をすればよいのではないか?と思っています。お寺も同じなんですよね。お葬式やご法事ばかりではなく、生きてゆく中で触れることで豊かな生活になるためのヒントになるコトや場であると。お寺に来てみると静かでいい所だって思ってもらえる、そのきっかけ作りをできたらいいなと思っています。

—来てくださる方を待っているだけでなくて、お寺としても主体的にやっているよと敷居を下げていくと。

はい、写仏や写経はコンスタントに人気があります。緊急宣言の状況下など、外に出ることもできないときにはおうちで写経ができるように写経用紙をホームページで公開し、ご自宅で写経される方もいらっしゃいました。コロナが少し落ち着いてきた今は、写経をおさめにお参りに来てくださり、コロナ禍の中でもまた新しいご縁が広がっています。

夜の本堂で行うキャンドルヨガも毎回満員

人と人とが交わる心の交差点に

—お寺としてはこんな行事を仕掛けていきたいとかお考えですか?

 そうですね、やっぱり老若男女いろんな方が集まる場にしたいなと。やはり悩める方や苦しみを持った方がお寺に来た時に、心が軽くなったとか明日からまた頑張れるパワーがもらえたとか、なにかのきっかっけの場になればと思っています。心と体の健康になるご利益があるのがお薬師様なので、来ていただいて、少しでも皆さんが元気になるようなその交わる場、想いと祈り、心の交差点になれればいいかなと思っています。

ありがとうございました。

取材先情報

真言宗豊山派 田子山 壽徳寺

仏教音楽コンサートの様子

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板垣 愛
埼玉県川越市出身。山形県鶴岡市にあるお寺に住んだ後、郡山市へ転居。本業は会社員。特技はカブトムシの幼虫を見てオスメスを当てられること。最近は会津の潜伏キリシタンに興味あり。